1992年の白鳥&ガマーシュ

 私(ハギノヒメ)が、初めてマラーホフのファンになった公演の話を
お目にかけます。
これは、私が当時書いたメモ(日記)から 殆どそのまま抜粋したかたちで、
一部編集を加えたものです。私の日記は 書きたいときにだけ書くというもので、
このころはしばらくブランクが空いており、この直前は89年の「昭和最後の日」、
その前は87年に2回、86年に3回の記述がある、といったぐあいでした。(笑)
この文章は、公演レポというより、“私はこうしてマラーホフにはまった の記”
と いったほうが正解かと思います。 あしからずご諒承ください。
なお、この下のほう↓にも書いていますが、私は89年のモスクワ・クラシックの
白鳥を見ていますがその時はマラーホフは出ておらず、
91年の日本バレエフェスの時にはまだファンにはなりませんでした。


1992.10.×.

 久しぶりです。でも ま、それはおいといて…  (中略)

そんなことより、このNoteを久々にひらいた真の目的は、別にあるのであった。
いきなり 本題に入る。

ウラジーミル・マラーホフ!  いま、彼に夢中なのである。
 9月から モスクワ・クラシック・バレエ団が来日していて、10/9(金)の白鳥と
10/12(月)の ドン・キホーテのチケットを 手に入れていたのである。
10/9 の 白鳥の湖、王子役は ガリムーリンであった。当然、道化は 別の人。
この日、マラーホフは出ていない。 ところが、見ているうちに、どうも ものたりなさを
感じはじめた。 ガリムーリンの 高くて 着地も柔軟なジャンプはすばらしいし、
ベンノ役のイワン・コルネーエフも 若くてすばらしいジャンプである。道化も、
3年前のガリムーリンほどではないと つい感じてしまうけど、でも 悪くはない。
しかし、たとえば 王子とオデットの出会いのシーンで、(これはどのバレエ団でも よく
思うことだけど) 2人の動きが 納得できるようにかみあわない。そういう振付
なのかと思ってみても、やはり ものたりない。
そのうち、コール・ド・バレエがそろってないのが目についたり、オーケストラの音まで
どうもあまり上手いと思えなくなってきた。
オデット・オディールは まぁ あんなものだろう ぐらいに思って、特に不満は
感じなかったが。(32回のグラン・フェッテは、最初 すばらしい速さの回転で、スゴイ、
と思ったが、後半スピードが落ちてきてしまった。ああいうパターンを見るのは
たぶん初めてだが、やはり あの技は難しい、ということなのだろう。)
 全体的に どうも私は、3年前のおぼろげな記憶 (道化とか、仮面の女とか) と
つい較べながら見ていたようだ。 そして、何よりも、私は ガリムーリンの王子に
どうも ものたりなさを感じていたのである。 マラーホフだったら おそらくもっと
気品のある王子に なるのではないかと、そう思えてならなかった。
 マラーホフの王子を見たい。 キャスト表が入っていなかったので、受付の人に
聞いてみる。
マラーホフは、11日に王子をやる とのことである。当日売りもある、と。 しかも、
ドン・キでは、2日間(12、13日)とも、ガリムーリンがバジル役、そして
マラーホフが“道化”役(?) ガマーシュをやる、と おしえてくれた。
12日に来るから、マラーホフにとりあえず会うことはできる。 しかし、
マラーホフのジークフリートも見てみたい。
彼はまだ若いけど、しかし 人は誰しもすぐ年を経て、ジャンプの高さもいつまでも
保てるわけでもないし、社会情勢で こんどいつ来るかもわからない。それに、
ソロやガラコンサートでなく、全幕物の白鳥で王子をやる姿をぜひ見てみたい。
 ――かくして、迷いに迷ったが、11日(日)2時、当日売りをあてにして、
再び東京文化会館へ出向く。 マラーホフ見たさに1万円はたいて、
2階席バルコニーのステージ寄りの席を手に入れる。
金曜日は10分ほど遅れて1幕めのワルツのあたりでとびこんだが、
今回はちゃんとあたまから見る。

ジークフリート: マラーホフ、 道化: ガリムーリン、
オデット/オディール: リュドミラ・ワシリエワ、
ベンノ: イワン・コルネーエフ、
ロットバルト: ワレリー・トロフィムチューク、 ナポリの踊り: 成沢淑栄、
結果は…

もう全然ちがう! 素晴らしい!!
 マラーホフは、さすがに気品がある。足の運び、一挙手一投足が 王子様
なのである。 それに、彼の演技力。 表現力。 物語の中の どこにいても
彼は ジークフリート なのである。 表情、ちょっとしたしぐさ、手の使い方、
弩をもらってよろこぶシーンはもとより、白鳥に困惑して(途惑って)、
そっと触れてみる、なんてところまで、ここまで見事に演じ切る、しかも
気品のあるジークフリートが ほかにいただろうか。 少なくとも
2日前に見たガリムーリンとは明らかに印象がちがった。 オデットとの
出会いのシーンだって、追っかけの動きが ちゃんと納得できるものになって
いる。 また、第一幕のラストの 王子の短いソロが なんとも素晴らしく、
印象深かった。 表現力がすごい。

 王子としてのマラーホフの気品は、踊りのあとのお辞儀(レヴェランス)
にも、よく表われていると思った。
実に、じつに、どこまでも 王子様 なのよ♪ (はあと)
 とにかく、マラーホフは、すべての演技がまわりときちんとかみあっていて、
納得できるものだった。
もちろん、ジャンプも 柔かく、美しい。

 ガリムーリンは、道化役はやっぱり良かった。彼は、こういうキャラクテールの
方が、むいているのでは。
 ロットバルトの踊りは、私の好きな キエフの ヴォローシンの悪魔を、
ちょっと思い出させた。
オデット/オディールの人は、9日、11日とも同じ。
11日は やはりマラーホフのおかげで引き締まったのか? コールドの乱れも
オケの音も、あまり気にならなかった。
 まあ、そんなわけで とてもよくって、おかげで私は感動でポ〜ッとして
月曜日も後遺症がのこった。


 ところが!!! それに拍車をかけたのが、12日 ドン・キでの、
ガマーシュ役のマラーホフである。
彼は、すばらしい演技力でガマーシュになりきってしまって、はじめて舞台に
登場してから 最後のカーテンコールにいたるまで、徹底的に ガマーシュ
なのである。
このガマーシュが、また、かわいい。 ぼうしを取られた頭の上にはリボンをつけ、
足にもリボン、うすいピンクのバラ1輪を顔の前にもってきて しょっちゅうキスし、
もじもじし、キトリ(ワシリエワ)が目の前を通るたびに彼女にワ〜ッと手を振ってみたり
するし、派手に踊りおわったあとは、やれやれおしゃれ(お化粧)がみだれるワ と
ばかりに 白いハンカチで顔をパタパタやる。 舞台のはじっこの方で座っていても
ひたすらガマーシュで、まぁそのしぐさのかわいくておかしいこと。
おまけに ガマーシュにも短いバリエーションの場がいくつかあり、すばらしくて
やっぱり美しいジャンプ(ジュテやマネージュ)をいくつもやって、着地したとたんに
ギックリ腰のマネをしたり、まあとにかく芸達者である。
舞台に立っているだけでも ずーっとガマーシュしてるので、彼の存在感が大きくって、
ガリムーリンがバジル なのに、どっちが主役だかわかんない位であった。
カーテンコールでは キトリをひっぱり出し、ガリムーリンには
「あ、おまえは来なくていいの。」なんてしぐさを、手をふってしてみせたり。
 でも、ガマーシュは 脇役で、貴族だからかもしれないけど、おじぎをする
マラーホフは、おちついて控えめだけどやっぱり気品があった。あれは
マラーホフの、バレエダンサーとして 持って生れた気品 なのだと思う。
 ガマーシュの歩き方とあいさつの投げキッスは、最後までつづいた。
写真を撮ろうとした人がいたが、とりたくなる気持ち わかる気がする。
ほんとーに芝居っ気たっぷりで、かわいいんだもの!
(注:この当時は観客のマナーが悪かったのです。写真撮影は禁止よ〜)
 主役のガリムーリンとワシリエワも もちろん素晴らしかったのだけど、
そして 全体的にも 楽しくて素晴らしい舞台だったのだけど、私には
マラーホフの素晴らしさを一段と強く印象付けるものになった。終演後、
“追っかけ”?(=出待ちのこと)をやってしまったほどである。


 (後日談)
10.△.

あれから もう1週間になるが、まだ後遺症が しっかりと のこっている。
何をしているかというと・・・ 白鳥の湖のCDをかけて 聞いてるし、
本を… 写真を、探し求めているのである!

ずい分前に買った ダンス・マガジンをひっぱり出す。
モスクワ・クラシック・バレエが 前回 '89年に来日した時は、10月26日
来日の最終日が 県民ホールにあたっていたが、まだ若手の“新進気鋭”
話題のマラーホフは、現われなかったのである。いちばんのベテラン、
“ベスト”メンバーのキャスティング ではあったようだが、
そんなわけで、3年前は、道化のガリムーリンの登場がいちばん印象に残って、
プログラムも けっこう捨てがたくてとっておいたのだが、
マラーホフとはどんな人か、知らなかった。 ので、雑誌の中のマラーホフも、
当時はあまり興味がなくて、ほっておいたのである。
でも、唯一、気になった写真があって、マラーホフとガリムーリンの
けいこ風景(「ドン・キホーテに挑戦中!」の記事) のスナップだが、
マラーホフのポーズの 美しい!のに とても魅かれて、切り抜いておいたのが
あった。 ・・・ここんとこ毎日、なんど それを取り出して ながめていることか!!
(↑腰に手をあてている アラベスクのポーズを、斜め後ろから撮った写真です)

私が 初めてマラーホフを見たのは、91年の6月末、日本バレエフェスティバルに
ガリムーリンとともに 特別?参加 (小嶋直也の代役でした) してくれて、
男性4人の踊り「カント・ビタル」と、そして あの「ナルシス」を 踊った時で
あった。 あの「ナルシス」、初めてだったから どんなのかよくわかってなくて、
ただ 見ているうちに なにやら すごい、と圧倒された。 ジャンプが高いし、
美しいし、すごいダンサーだ、ぐらいの印象で、記憶している。
(席が前のほうだったにもかかわらず、前の人の頭で舞台中央がまったく
見えなかったので、肝心の後半部分を殆どちゃんと見ることが出来ず、
さっぱりわからなくなっていたのです。)
・・・今となっては悲しいことだが、残念なことに、そのくらいしか、
おぼえてないのよ! ああ、あの「ナルシス」、もう1度、見たい!!
(「カント・ビタル」に関しても、全く説明できません。ごめんなさい。)
 それから、今年92年の5月31日、プリセツカヤ・マラーホフと仲間たち の
チケットを手に入れて 楽しみにしていたはずだったのに、こともあろうに 私、
その日を つまらないことでフイにしてしまったのだよねー〜〜
まったく、今になって、すごく後悔してる(涙涙)
 とにかく、そんなわけで、かの マラーホフに、私は今回ようやく 2度目の
対面(?)を はたしたわけですが・・・ このたびの 衝撃!?が あまりにすごくて、
にわかに 写真をもとめて、3年前の雑誌やらプログラムを ひっぱりだしたり
しているのです。
それにしても、あー 今まで捨てないでおいて よかった!!(笑)

 いやー、しかし、私は 事実上、今回の来日公演で、はじめて はっきりと
マラーホフを認識し、それから、今までは特に目に留めてこなかった かつての
写真を、意識的に見なおしているわけだが、
 マラーホフって、ほんと 演技派 なのね。 他の人にくらべて、
いくつかの写真で ホントにそう思う。「アンナ・カレーニナ」にしても、
ジークフリートもアルブレヒトも、そしてガマーシュも。
ただ、写真 っていうのは、必ずしも 自分の目でナマで見たように写っていない。
私の心の目に写ったマラーホフは、私のイメージで 美化されすぎて
私の中に残っているのかもしれないけれど、でも、私は、写真で見えるものに
頼りすぎず、心に焼きついた姿も 忘れずにいたい、と思う。。。


 追記
上の日記では書いていなかったが、モスクワ・クラシックの「白鳥」の舞台で
ひとつ 私が忘れられなかったことは、マラーホフが、2幕のオデットの登場の
ところで、舞台のカーテンのこちら側に身を隠し、つまり 客席に、「木の影に
隠れてオデットの様子を見ている王子」 という自分の姿を見せていた事 でした。
あんなふうにするジークフリート、私は初めて見ましたよ。(マラーホフの他に
いるのでしょうか??) 2002年の贈り物公演の ケントとの白鳥第2幕で、たしか
これが復活し、私は大変嬉しかったです。
2004年の秋の白鳥でもたしか見せていましたね。
その他、モスクワ・クラシック版では、第2幕の白鳥たち(コールド)が、
ロットバルト・コーナーから一列になって出てくるのではない、四方から登場という
演出になっていたらしい。(自分のメモより。)
結末に関して、最後にロットバルトばかりか 王子もオデットも折り重なって
死んでしまう、というふうになっていたことは、最近になってどなたかから話を聞く
まで、すっかり忘れてしまっておりました。(笑) 最後の最後でなぜかそうなるので、
この結末は 私にはよく理解できていなかったようです。

(最終更新: 2005.8.23)   

▲この頁のtop  
感想目次へ戻る  Top pageへ戻る